「選ぶことと、決めること」
ー この春、ひとつの別れから考えたこと ー

この3月で、ひとりの職員が退職します。
彼と出会って、ちょうど1年
正直に言うと、最初は頼りなさも感じていました
自分のやりたいこともはっきりせず、
迷いながらここまで来た、という印象でした
何度か、
「自分は役に立てていない気がする」と、辞めたいと口にすることもありました
振り返ってみると、彼はずっと、
「選べない状態」にいたのだと思います
だからこそ私は、そのことについて何度も話をしてきました
ただ、あえてこちらから答えを示したり、
強く方向づけるようなことはしてきませんでした
もどかしさを感じる場面も多くありましたが、
「選ぶこと」や「決めること」を、
こちらが奪ってしまわないようにしたかったからです
正直に言えば、
それが良かったのかどうか、迷うこともありました
もう少し踏み込んだ方がよかったのではないか、
もっと違う関わり方もあったのではないかと考えることもあります
でも今回、彼は
「辞める」という選択をしました
そしてその瞬間から、動きが変わりました
現場での動き、周りへの気配り、
報告や相談の質や量も、明らかに変わった
裏での動きや全体を見る力もついてきて、
「任せられる」と思える場面が一気に増えました
正直に言えば、
「そうそう!期待していたのは、それだよ、それ!」
「もっと早く、この姿を見せてほしかった」と思う気持ちもありました
でもそれ以上に、
「自分で決める」ということが、
人をここまで変えるのだと感じました
選ぶということは、まだ可能性の中にいる状態で、
迷ってもいいし、やり直すこともできる
でも、決めるということは、
その選択を引き受けることでもあります
他の可能性を手放し、
自分でその先を進んでいくということ
だからこそ、ただの思いつきではなく、
「辞める」を決めたときに変わったのだと思います
送り出すことへの不安がないわけではありません
この先、本当にやっていけるのか
新しい環境で、また迷うこともあるかもしれない
そう思う気持ちも、正直あります
それでも、その選択を尊重したいと思っています
人は、誰かに決めてもらうのではなく、
自分で選び、決めることでしか前に進めないと思うからですそして、たとえ迷ったとしても、
その経験自体が、その人をつくっていくと信じています
この出来事は、子どもたちへの支援にもつながっています
子どもたちは日々の中で、すでにたくさんの「選ぶ」や「決める」に出会っています
どのおもちゃで遊ぶか
どこに座るか
先にやるか、あとにするか
やるのか、やらないのか
一つひとつは小さなことかもしれません
でもその積み重ねが、「自分で選ぶ」「自分で決める」につながっていきます
だからこそ私たちは、
つい誘導したり、つい決めてしまったりする関わりの中で、
その小さな機会を奪ってしまっていないか、気をつける必要があります
もちろん、すべてを任せることがいいわけではありません
時間や安全面から、こちらが決める場面もあります
それでも、
「どこなら選べるか」
「どこなら決められるか」
その余白を残すことを大切にしたいと思っています
ただ、その中で気をつけていないと、
「本人のため」が、
「大人が安心するため」にすり替わってしまうことがあります
先回りして整える
決めてあげる
迷わないように誘導する
その積み重ねが、結果として、
「選ぶこと」や「決めること」の機会を、
少しずつ減らしてしまう
その先にあるのは、
「選べなくなること」
そして「決められなくなること」です
だからこそ私は、
その子が選び、決められるようになることを、
支援の中で大切にしたいと思っています
そのために、
「待つこと」
「伝え方を変え続けること」
を意識しています
「待つこと」は、何もしないことではありません
その子が考え、選び、動き出すための "余白" を残すことです
しかし現場では、
時間がない
次の予定がある
周りの目がある
そうした理由で、「待てない」ことが多くあります
だから私は、待つことを感覚に任せず、
「逆算して設計する」ようにしています
あと5分なら待てるのか
待てば、気持ちに区切りがつけられそうなのか
今日は難しくても、明日もう一度機会をつくれるのか
待つことは、何もしないことではなく、
意図してつくるものだと考えています
とはいえ、これがいつもできているかというと、そうでもありません
早く進めた方がうまく回ると感じてしまうときもあるし、
周りの目が気になって、つい手を出してしまうこともあります
「待ったほうがいい」と分かっていても、
待てなかったな、と後から思う日もあります
もう一つは、「伝え方を変え続けること」です
伝わらないとき、それを本人のせいにしないこと
でもこれは、簡単なことではありません
言葉を変える
見せ方を変える
タイミングを変える
「伝わるまで関わり方を変える」ことを大切にしています
その子が「自分で選んだ」「自分で決めた」と感じられる瞬間・感覚を、
一つでも多くつくりたい
そう思いながら、日々関わっています
子どもたちを見ていても、
「選ぶ」ことはできても、
「決める」ところで止まってしまう場面は少なくありません
それは能力の問題というよりも、
失敗したくない
どれも捨てがたい
決めた後が不安
そんな気持ちの中で、
一歩踏み出せずにいるようにも感じます
だからこそ支援は、
安心して「選べる」環境をつくることと、
「決めても大丈夫」と思える経験を積むこと、
そして、
決めきれないときに「助けて」と言える関係をつくること、
その積み重ねなのだと思っています
人は、
選ばなければ、何も変わらない
決めなければ、何も変わらない
この春、ひとつの別れの中で、
そのことを改めて感じました
そして同時に、
人が動き、人が変わっていく場所であることが、
この仕事の価値なのだとも感じています
出会いがあれば、別れがある
その一つひとつと、ちゃんと向き合っていきたい
だからこそ、
ここでの時間が、
その人の次の一歩につながる場所でありたい
これからも私たちは、
子どもたちが
「選べるように」
「決められるように」
そしてその先で、自分の人生を歩んでいけるように、
関わり続けていきたいと思います
そう思いながら、この春を迎えています